会長挨拶

 この度、平成29年(2017年)6月2日(土)・3日(日)に第30回小切開・鏡視外科学会 をベルサール神保町において開催致すことになり、大変光栄に存じます。
 本会は、平成21年5月にお互い連携を取りながら長く活動してきた「吊り上げ法手術研究会」と「ミニラパ研究会」が統合する形でNPO法人として設立された学術団体であります。
 設立の目的は、名称の「小切開・鏡視外科学会(Lift Endoscopy & Minimal Incision Surgery: LEMIS)が示すように、「開腹手術で確立された安全性をいささかも損なわない内視鏡下手術の確立と研究および普及」であり、時に小切開創を十分に活用することで、従来の手術器具やアプローチを生かした内視鏡下手術が可能となるだけではなく、安全性のみならず経済性の面でも優れた手術を構築できるのではないかと考えております。
 一般に、腹腔鏡下手術は「低侵襲性手術」と称されていますが、全身麻酔下で術野の確保では腹腔内に二酸化炭素(CO2)ガスを注入し、気密性の高い環境(気腹法)で手術を行なうことから、時に気体塞栓・皮下気腫の発生や微細な出血の見落とし、麻酔面では腹腔内圧の上昇に伴う静脈還流への影響、さらには出血時の急速吸引操作による術野確保の困難など、一度トラブルが発生すると通常の開腹手術よりも問題点が顕著となり、必ずしも「低侵襲」とは言えない側面も指摘されております。
 こうした内視鏡下手術の「負の側面」をできるだけ小さくする試みの一つが、本学会がこれまで取り組み、普及に努めてきた「吊り上げ・小切開利用を併用した内視鏡下手術」であります。
 幸いにも、こうしたコンセプトは外科領域(消化器・呼吸器・内分泌・小児外科など)のみならず、産婦人科や泌尿器科等にも広く理解が進んでいると感じております。
 第30回学術集会は、最初に「吊り上げ法手術研究会」が発足して通算30年という記念の開催年度であることから、基調講演として長年にわたり本会代表を務めてこられた橋本大定先生に本会の沿革と今後の展望につきましてご講演いただきます。教育講演は、内視鏡下手術は開腹手術に増して局所解剖が重要であることから、臨床解剖学として新知見を発表してこられた国立がん研究センター中央病院婦人科腫瘍科長の加藤友康先生に骨盤解剖学と神経温存術式についてのご講演を予定しています。また2016年はリオ・オリンピック・パラリンピックが開催され、多くの日本人選手が活躍されました。その中で高位脊髄損傷などの障害者の方は、術後の呼吸機能の面から全身麻酔が困難な場合があり、こうした際には気腹法ではなく「吊り上げ式+自発呼吸下腹腔鏡下手術」も選択枝に一つと考えられることから、国立身体障害者リハビリテーションセンターの先生にご講演を予定しております。
 ここに、今回の学会開催の目的と意義をご紹介申し上げました。これまで本邦で発展してきた内視鏡下手術ではありますが、すべての方に同一の手法で実施することが必ずしも適当であるとは限らず、患者さんに合わせた柔軟な対応と安全性を踏まえることが何より大切と感じております。是非とも温かいご支援を賜りますよう重ねてお願い申し上げ、ご挨拶とさせていただきます。
 皆様の多数の演題ご応募と、当日のご来場をお待ち致しております。

平成28年9月吉日


第30回小切開・鏡視外科学会
会 長:古谷 健一
〔防衛医科大学校産科婦人科学講座教授、
病院副院長(管理・運営)〕